出版社:岩埼書店 著者:斎藤隆介・作 岩崎ちひろ・絵
発行:1972年3月
私には忘れられない絵本があります。子供の頃何度も何度も読み返し、大人になった今でもふと読み返したくなる絵本、それは斎藤隆介さんの「ひさの星」と「花さき山」です。
「花さき山」は、十歳のあやが道に迷って入った山で出会った山姥が語るお話です。その山は、山のふもとの村に住む人間が優しいことをすると美しい花が一つ咲くのです。一面に咲く色とりどりの花の中にはあやが咲かせた花も咲いていました。貧しい家のあやはおっかあと妹のために新しい晴れ着を我慢します。自分より人を思うあやの優しい気持ちがきれいな花を咲かせたのでした。長女でいとこ達の中でも年長さんだった私は「お姉さんだから我慢しなさい」と言われながら、辛抱するあやの姿に自分を重ねてみていたような気がします。
「ひさの星」は無口でひかえめな十歳のひさのお話です。襲いかかる犬からはいはいする赤ん坊を守ろうと傷だらけになりますが、傷だらけである事を責めるおっかあに、ひさは「自分は赤ん坊を助けるためにこうなったんだ」と主張はしません。ついには大雨の中川に落ちた幼子を助けるために身代わりになって命を落とします。雨が上がった空に輝く星を見て、村の人たちは「ああ、こんやも ひさの星が でてる」と言いあいました。
子どもの頃は単純に「私もあやみたいにきれいな花を咲かせられるかなあ」「ひさはかっこいいなあ」と同世代である二人の少女を尊敬の眼差しで見つめていました。と同時に物言わぬひさをじれったく思い、ひさの静かな優しさに気づかない大人たちを腹立たしく思っていました。昔は影で耐え忍ぶ姿や強い自己犠牲の精神は美徳とされていましたが、今は声高らかに自己主張した人の方が良いとされることがあります。しかしそれでもその人たちの中にひさのような優しさと弱者を思う強さがあれば良いと思います。
ひさは憧れです。身勝手な理由でのいじめや少年犯罪がどんどん増えているのをニュースでみていると、ひさのつめの垢をせんじて飲ませてあげたいと思うのです。
殺伐とした現代に生きる子ども達にぜひ読んでほしい。そしてほんの少しでいいからひさの静かな優しさと強さに何か感じてほしい。そしてほんの僅かでいいから他人を思いやる優しさと強さを持ってほしいと願うのです。
評者:紀伊國屋書店ゆめタウン博多店 児童書担当 竹下心
引用:表紙は岩埼書店サイトから引用