出版社:新潮新書 著者:飯吉厚夫・村岡克紀
発行:2008年5月
東海道新幹線や黒四ダムのようなビッグプロジェクトは、なぜ成功したのか。スペースシャトル・チャレンジャーの爆発事故や高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故は、どうして起きたのか。
最近、事故やトラブル、ミスの要因を探り、再発防止に生かす「失敗学」がクローズアップされている。書店には「失敗学」の本もたくさん並べられている。
そんな中で本書を取り上げたのは、「核融合」の開発研究というビッグプロジェクトに長年にわたって携わってきた二人の科学者が書いた本だったからだ。「核融合」はまだ開発途上のプロジェクトであり、その成否の判断は今後に委ねられるが、筆者の一人、村岡氏は最近まで九州大学総合理工学研究院で核融合の研究にかかわっていた学者である。
本書は国内外の十四の大型プロジェクトを丹念に調べて、その成功と失敗の要因を探っているが、難しい数式や専門用語はほとんどない。読み物風に書かれているので、中学生でも読みこなせるだろう。
二人の筆者が手分けして調査した結果、ビッグプロジェクトが社会に受け入れられて成功するためには、次の三つの欠かせない要素があることが分かったという。
一、時代の要請が強いこと
一、リーダーに高い志と気概があること
一、ものづくりの技術陣のレベルの高さ
この三条件を当てはめると、当時の鋳造技術を駆使した「奈良の大仏」の建設や延べ一千万人が作業に従事した「黒部川第四発電所」ダム、日本の鉄道技術を総結集した「東海道新幹線」などの成功が見事に説明できる。
逆に、この三条件のいずれかでも欠けていれば、プロジェクトは失敗する可能性が高い。チャレンジャーでは現場技術者の判断より政治的な判断が優先されたため事故を招き、「もんじゅ」では初歩的な技術がないがしろにされていて、計画の全体に責任を持つリーダーもいなかったという。
これからプロジェクトを手掛けるときに、参考にしたい本である。(初出: 西日本新聞 朝刊 2008年6月1日)
評者:九州大学客員教授・西日本新聞社書評委員 溝越明
引用:表紙は新潮社サイトから引用