出版社:春秋社 著者:佐々木正人
発行:2003年7月
各個人の行為の根源的意義を見出す
この書を書評の対象にするかどうか、かなり悩んだ。なぜなら、自分がこの書に書かれていることを理解できているとは到底思えないからだ。
しかし、この機会に一度思い切って書いておかねばならないと思った。それは、この書が自分に与えた影響がそれほど大きかったからだ。
この書を読んだ当時は、独立して走り始めていた頃で、自分自身デザイナーの一人として、デザインとはなんなのか、について考えていた。
自分自身のしていることを、誰から聞かれても、誰にでも分かるように、専門的な言葉を用いることなく、説明しなければならない。そう考えていた。
それはどの職業においても最低限の責任だ、と今でも考えている。
しかしこの試みはそう生半可なことではない。
自分がやっていることほど、客観的には説明できないものだ。
そんな時こそ、哲学や科学などの、包括的な、世界に対する新たな見方を与えてくれる分野に触れることが必要だ。
この書はまさにそんな状況で読むにふさわしい書である。
この書では、肌理(きめ)と粒という言葉を中心に、人間の知覚世界について書かれている。自分達がどのように周囲の世界を知覚しているのか。
この書を読めば、人間が周辺環境と無意識のうちに持っている関係を知ることができる。かつそれがどれほど多く我々の行為を支配しているかが分かる。
そして、この書の考え方を応用すれば、地球から各職種や各個人の役割までを定義することだってできる、と私は思った。
それは、デザインを専門的な言葉を用いることなく定義しようと試みていた自分にとって、大いなる助けになった。
デザインの意義への確信を持つことができたのだ。
人はそれぞれ自分のしていることの意義を見いだしたくなる。
果たしてこれは求められていることか。本当に必要なことなのか。
今から読む読者にとっても、この書がそんなそれぞれの問いかけの答えを導く助けになるはずである。
評者:建築デザイナー no.d+a代表、TRAVELERS PROJECT主宰 野田恒雄
引用:表紙は春秋社サイトから引用