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地元学をはじめよう

2010.8.4

出版社:岩波書店(岩波ジュニア新書) 著者:吉本哲朗

発行:2008年11月

ありとあらゆる情報に囲まれ、情報の抽出、整理が「考えること」と思いがちな現代の子どもたちに、自分たちの力で調べ、解決方法を考え抜くという経験をして欲しいという願いも込めて、吉本哲明著『地元学をはじめよう』を紹介したい。
地元学とは、そこに住む人たちが自分たちで地元のことを調べ、地元に「ある」ことを今の生活に役立てていく取り組みのことである。
著者の吉本哲郎氏は、水俣病問題で疲弊した地元水俣の地域再生を目指して地元学を始めた。かつて水俣は、公害を抱えた町として、研究者など外部の様々な人間が入り込み、状況を調べ情報発信していた。しかし住民はどこかよそ事と捉え、自らの考えを変えるには至らず、地域も疲弊したままであった。著者は、自分たちのことは自分たちでやるという自治する力を根本に据え、自分たちであるものを調べ、考え、あるものを新しく組み合わせる力を身につけなければ地域は変わらないと考え、地元学に取り組む。
「ある」ものとは、自然などそこにあるもの、お祭りなど地域にあること、そこで生活する人たちのことである。地元学では、地域の人・自然・経済の3つが元気になることを目指し、「ないものねだりをしない」を合い言葉に「ある」ことを徹底的に探す。ここでは、「ある」こと探しの方法がわかりやすく書かれている。また、遠くはベトナムまで様々な地域の事例が紹介されており、地元学を地域に取り入れることで、人や地域が元気になる様子が描かれている。
調べるときの心がけがいくつかあげられているが、私が特に心に残ったのは、「自分の経験で推し量るのではなく先入観を捨てて聞く」である。私たちの仕事は、特定の目的に沿って結論を想定しながら、ヒアリングやデータ収集を行う。このような調査研究に慣れると、先入観のない目で物事を見るのは難しくなる。しかし、この本は、自分の素直な気持ちで「あること」を見る大切さを教えてくれる。

評者:九州経済調査協会 調査研究部 研究員 能本美穂

引用:表紙は岩波書店サイトから引用

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