出版社:金融財政事情研究会 編著:大西達也 城戸宏史
発行:2020年04月
「地域経営力」が地域の未来を左右する。これが本書のメッセージである。
2014年に端を発した地方創生政策は、2020年度から第二期を迎えた。日本全体の人口問題の解決と地域の活性化の両立を如何になすか。本書では、人口問題の解決に関しては「現時点では必ずしも十分な成果を確認することはできない」ものの、地域の活性化に関しては、「自治体間の地域経営力の差」が明白にみられると指摘している。
人口減少下で、豊かな生活を営む地域をつくるためには、生産性の向上とイノベーションが必要であり、そこに地域の「希少性の価値」や「らしさ」、いわゆる「地域資源」の価値化が決定的に重要である。ただし、その価値化は簡単ではないのが実態であろう。この価値化のプロセス、つまり地域主導のボトムアップ型の地域づくりを進めるための新たな地域コミュニティを構築する力とそれをマネジメントする力が「地域経営力」とうことになろうか。
本書では、全国32地域の地域経営の現場で、危機感を共有し、各地に眠る地域資源に気づき、磨き、光をあて、組み合わせ、事業モデルを確立し、世に示すというプロセスが詳細に分析されており、地域経営力を高めるための多くのヒントが示されている。地方創生以前からの地域プロジェクトの事例など、地方創生の交付金等を対象としない事業も多く含まれており、まさにボトムアップ型の地方創生の本質を感じ取ることができるだろう。それぞれの事例は、ポイント、成功の要因、地域への波及効果という共通の軸で整理されている。各地の実践に関わる執筆陣によって書かれた文書からは、現場の臨場感がリアルに伝わってくる。各地でどのような地域経営力が発揮されているか、事例を通してそのポイントと成功メカニズムが体感できるだろう。
地域経理力が発揮されている新しい地域コミュニティとして、「コミュニティ・キャピタル」の考え方が示されている。帰属意識に基づく相互扶助や連帯から成功体験や共通体験によって繋がる信頼関係「准紐帯」への深化である。
そして、このようなコミュニティ形成のマネジメントとして、英知の結集、人的ネットワーク、自立的チーム・組織の必要性が示され、「巻き込み力」、「シビックプライドの醸成」、「じぶんゴトとして感じる感性」など、地域経営哲学の明確化とその継承、地域ブランディングに基づいた地域デザイン戦略の重要性が、事例を通じて腹落ちする。
今後は、ウィズコロナで空間の使い方や移動の仕方、働き方や生活スタイルが大きく変わる。新常態(ニューノーマル)の世界では、リアル空間は密から疎、ネット空間は疎から密に振れ、大都市圏と地方の役割や価値のあり方も変わる可能性がある。この価値の変化をどう捉えて地域づくりに生かしていくかもまた地域経営力にかかっており、価値を示せる地域には新しい可能性が広がるだろう。
事業開発部部長兼BIZCOLI館長 岡野秀之
表紙は きんざいサイトから引用