出版社:ダイヤモンド社 著者:カーリー・フィオリーナ
発行:2007年11月
著者のカーリー・フィオリーナは元HP会長兼CEOである。新聞、雑誌、テレビ等を通して私自身が持っていた印象は鼻持ちならない、権力志向が高い、女性CEOというものだった。2005年2月、HPを更迭される。彼女がどういう人で、何を信念に働き、誰を守ろうと踏ん張っていたかなど知らずに、マスコミが報道するトーンのまま、私も、所詮、米国のCEOのなりの果てだといった感想しかもたなかった。
その彼女が「回想録としての正確さを保ちつつ、読者には興味の持てないであろう事柄を省いてなお全体像が伝わるよう、苦心を重ね」書いたものが本著である。自著だから、割り引いて読むのが常識だろうが、この本に関しては割引無しで読めるのではないかと直感した。
「訳者あとがき」にもあるが、「事実を見る。事実を話す。ほんとうのことを話すのが、相手に敬意を示すことだ」というスタンスを維持することが如何に大変か。多くの企業人、組織人は本書を読みながら、そのことを思い知ると同時に、それこそが人間の尊厳を守る唯一の方法ではないかと思うのではないだろうか。
本書の読み方はいろいろできよう。強すぎる意志をもつ人間の不幸な顛末劇と読むことも、日本に比べると大きな権力をもつかにみえる米国経営者も大きな組織の前ではあっさりと捨てられることを納得しながら読むことも。ただし、プライドを持って働くとはどういうことか、社員に勇気を与える経営者、リーダーには具体的にどのような働き方が求められるのかを知りたいなら、本書を読むことをお勧めする。経営者やリーダーの回想録本を読んでも人に勧めることがない私が、もしかするとはじめて一押しする好著である。
評者:福岡大学商学部教授 田村馨
引用:表紙はダイヤモンド社サイトから引用