出版社:福音館書店 著者:杉浦康平/北村正利
発行:1986年6月
天にきらめく 光の粒 ・・・・・・・ 明るい星があり、暗い星がある。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ そして遠い星があり、近い星もある。(冒頭より)
この本は紹介しないといけません。一見しても、百見しても、とにかく地味な星の本です。渋い紫のページに、白・青・朱の3色のみで黙々と星が打たれています。原色や、カラー写真、エナメル加工の表紙がキラキラにぎやかな児童書の売場にあって、ひっそりと棚にささっているその静かな佇まいは何とも奥ゆかしい。ところが控えめな装丁に油断していると、中身の豪華さ・・・そのギャップに唸らされます。
そう、この本、そのタイトルが表すとおり、なんと星を立体的に見せてくれる世界初の一冊なのです。巻末付属の赤と青のセロハンメガネをかけてページをのぞくと、近い星は近くに、遠い星は遠くに、全天88星座、2600個もの星々が輝き始めます。その瞬きは不思議で儚げで、思わず声をあげた後、息をつめてしまいます。
星々はあまりに遠すぎて、地表からは平面にしか見えません。古代より、人は天の星々をつなぎ星座にみたて、その物語を語って天上の世界に思いを馳せてきました。今、この本の紫の空間の中に、美しいレダのもとへ飛び立つ、大神ゼウスの変じた白鳥のはばたきが(はくちょう座)、子熊を守るかの様に空を駆ける母熊カリストの姿が(こぐま座・おおぐま座)、躍動感を持って再現されています。みなさん、天上一、二を争う大きな星座、豊穣の女神おとめ座のデメテールは地球に頭をむけて横たわっているってご存知でしたか?本来地上の人間には、決して許されていない俯瞰・・・・・まるで神々の目を得た様な究極の贅沢です!!
グラフィックデザイナーの杉浦氏、天文物理学の権威である北村氏の奇跡のコラボを持って、実に十数年の月日を要して、試行錯誤と膨大な計算の基に誕生した本書、この本を児童書として出版してくれた製作者方に脱帽!!乾杯!!
夢のある、素敵な本です。さあこの夏休み、子どもたちを遊びに連れていけなかったお父さん、お母さん。子どもさんと一緒に2415円の宇宙一周旅行に旅立ちませんか?
P.S.この本にやられて、にわか天文ファンになった方、ギリシャ神話を紐解きたくなった方、「星空の地図」PHP研究所、「星の神話・伝説図鑑」ポプラ社もおすすめです。
評者:あおい書店 博多本園 児童書担当
引用:表紙は福音館書店サイトから引用