出版社:ミシマ社 著者:清水浩
発行:2009年6月
三菱自動車i-MiEV、日産LEAFをはじめ、電気自動車の話題に触れる機会が増えてきました。CO2を出さない、静か、加速がスムーズといったメリットとともに、バッテリー性能に反映される走行距離の短さや、街中に充電設備がないといった課題も取り上げられます。
電気自動車を使う立場からは、従来のガソリン自動車と比べて不便な部分が気になると思います。ただ、電気自動車がこれだけ話題になる背景をよく考えると、利便性だけを追求することが正しいのかどうか・・・これまでの身勝手な行いを振り返りたくなります。しかし、それと同時に、振り返って反省するばかりではなく、明るく前へ進みたいと思う自分もいたりします。
そんな時に手にしたのが『脱「ひとり勝ち」文明論』。8輪の電気自動車Eliica(エリーカ)を開発する慶応大学清水先生が、電気自動車が走る未来について、優しく、わかりやすい言葉で私たちに語りかけてくれます。
電気自動車の機構をどのように組み上げ、その動力源となる電気エネルギーをどう作り出すかという話から始まります。そして、世界中の人々が電気エネルギーを使うことで、世の中がどのように変わるかだけでなく、人々がエネルギーを享受することで、貧困から脱することができ、戦争もなくなる・・・という明るい未来も描かれています。特に、太陽光発電の普及によって、今まで貧しくて化石燃料を手にすることができなかった国でも、その可能性が大いに高まるということにも触れています。電気エネルギーを活用する未来とどう向き合っていくか、清水先生は読み手にそう問いかけているように感じます。
実際、私自身も本を読みながら「自分は明るい未来のために何ができる?」と自問しました。その答えは、自分自身が行動を起こせるような具体的なことから、「こうだったらいいな」という願いまでその内容は幅広く、どれもワクワクするような、希望に満ちあふれたものでした。現実の課題は簡単に解決できるものではありませんが、希望を抱いて向き合うことはとても重要なことだと思います。
「希望がない」と言われることも多い現代、希望というのは与えられるものではなく、自ら抱くものだと改めて感じることのできる本です。実際に電気自動車に乗らずとも、頭の中で繰り広げられる未来へのドライブに出かけてみてはいかがでしょう。
評者:九州経済調査協会 調査研究部 主任研究員 平田エマ
引用:表紙はミシマ社サイトから引用