出版社:東京創元社 著者:エーリッヒ・フロム
発行:1951年12月
今から30年近く前、4大卒女子は大手企業からシャットアウトされていた。大学を卒業して社会人になったあの頃の空虚な気持ちは忘れることができない。未来は無限に広がっていると思っていたのに、自分の世界が閉ざされてしまったような絶望感。狭くて窮屈で、自分がどんどん小さくなっていくような気がした。仕事は忙しく、楽しくもあった。けれど、苦しかった。もっと広い世界の人たちと会いたい、もっともっと早く大きくなりたい。たまらない焦燥感を感じて、昼休みにひとりで本を読んだり、お稽古ごとをいくつも始めたりした。結局、3年で退職し、失業していた半年間、猛烈に本を読んだ。カント、デカルト、ニーチェ、ショウペンハウエル、マーガレット・ミード、フロイト、ユング…、その頃、ブームだった浅田彰、中沢新一…。そして、エーリッヒ・フロムの「自由からの逃走」を読んだとき、何かがストンと落ちた感じがした。教養部の社会学の授業で買った本。大学時代は遊んでばかりで読まずに放り出していたのだけれど、26歳のあの日、カラダにしみ入るように入ってきた。
「(社会に)よく適応しているとしても、それは期待されている人間になんとかなろうとして、その代償にかれの自己を捨てているのである。」
「生命は成長と表現と生存を求める。もしこの傾向が妨害されると、生命を求めるエネルギーは、分解過程をたどって、破壊を求めるエネルギーに変化するように思われる。いいかえれば、生命を求める衝動と破壊を求める衝動とは、互いに独立した要因ではなくて、からみあい、依存しあっている。」
人間は、絆から解かれ、自由を得ると、無力感、孤独感に陥り、第2の絆を求め、「自由」から逃避し、服従と支配を求める。
私は、会社という組織のなかで、がんじがらめになっていく自分を解き放とうと辞めた。たぶん…。これから、私はどう生きていくんだろう。どんな自分でありたいのか。一生懸命考えたあの頃。数ヵ月後、行き当たりばったりに職についたのだが、その後の「自由」を求める旅~ミニコミ誌の編集の仕事から起業への道~を思うとき、大きな1冊だったなあと思う。
評者:福岡県男女共同参画センターあすばる 館長 村山由香里
引用:表紙は東京創元社サイトから引用