出版社:早川書房 著者:エイミー・E.ハーマン 訳者:岡本由香子
発行:2016年10月
読み進める内に、「信じれば それが真実」という台詞が頭に浮かんだ。映画の中では「なりたいものになれる」という趣旨で本書とは異なるのだが、私達は普段、自分が信じたものが真実-即ちありのままを見ず、思い込みでしか物事を見ていないのではないか。
人間が一度に見られるものの数は限られており、脳が処理できる数となるとさらに少ない。実際に掲載されている数々の名画を観て、問いを解き、解説を読むと、観ているようで観ていない物事の多さに気がつく。それが訓練次第でより細かく、より正確に見ることが可能になると言う。目という驚異のコンピューターを使って、情報処理能力、思考力、判断力、伝達力、質問力を向上させる事が本書の目的である。
事例では、多くの方が不快と思われるような名画も登場する。これは、人は突きつけられた事実があまりにむごかったり信じられなかったりすると、人は情報を遮断する-「意図的盲目」を選択しがちである事から、見たままを言語化する訓練に役に立つ。不快であろうとなかろうと、目の前にある名画には描き記されているからである。無意識のバイアスを自分が持っていることを自覚し、目の前にある事実を集め、分析に集中する。優先順位を付け、別の視点から違ったものが見えてこないか、疑念を持って観察する。すると、初見では見えてこなかった物事が如何に多いかに驚かされるであろう。
大事なものを見る力は世界を変える。教養書かと思えばさにあらず、「見る力」と「解く力」を鍛える事ができる、ビジネスにもプライベートにも有益な実用書である。
BIZCOLI 近藤孝子
表紙は早川書房サイトから引用