出版社:PHP研究所 著者:江口克彦
発行:2007年11月
九州大学で十月から西日本新聞寄附講座「分権型社会論」の講義を担当しており、道州制や市町村合併は密接にかかわるテーマだ。「授業の参考に」とさっそく目を通した。
著者は地方分権がクローズアップされ始めた一九九〇年代初めから「地域主権型道州制」を提唱し、「地域主権論」「脱『中央集権』国家論」など著書も多い。その主張はこれまでの考え方を踏襲しているが、今回の新著からは「中央集権体制を改めない限り、ほどなく日本は衰退の道をたどる」という著者の強い危機感が伝わってくる。
それは、著者が今年一月から道州制担当相の私的懇談会「道州制ビジョン懇談会」の座長を務め、地域格差が広がる地方の実態を見て回っていることも関係しているのだろう。
この本が強調している「地域主権型道州制」は、明治維新以来続いてきた中央集権的な国家の統治システムを根本的に改め、全国を十二の道州、三百の基礎自治体に再編しようというものだ。そのために、国が担当しているほとんどの業務を道州に移譲し、現在、四十七の都道府県が担っている業務の多くは基礎自治体である市町村に移す。
こうしたかたちの道州制が実現すれば、各道州がそれぞれに独特の政策を打ち出し、個性ある発展が可能になるという。
しかし、現状を見据えると、道州制の実現には困難な関門が立ちはだかっている。
まず、三百の基礎自治体をどうやって実現するのか。平成の大合併によって九〇年代末に三千二百あった市町村は現在、千八百まで減少した。だが「合併によって地域間格差が広がった」「過疎化が進む中山間地はどうなるのか」といった不安の声が強まり、さらなる合併の展望は開けていない。
もう一つのハードルが、権限を失いかねない中央官僚の抵抗だ。「霞が関の解体」には強い政治のリーダーシップが必要になる。
道州制は国民の関心がまだ低調だが、経済界や政党レベルでの議論も進んでいる。これから道州制の国民論議を進める際の「たたき台」にしたい一冊だ。
(初出: 西日本新聞 朝刊 2007年12月9日)
評者:九州大学客員教授 西日本新聞社書評委員 溝越明
引用:表紙はPHPサイトから引用